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Slackはなぜ企業向けチャットとして広がったのか調べてみた

Slackじゃなくても、よかったんじゃない?企業向けチャットが当たり前になった理由を、Slack・Chatwork・Microsoft Teamsの歴史や普及方法から調べてみました。

Slackはなぜ企業向けチャットとして広がったのか調べてみた

Slackじゃなくても、よかったんじゃない?

会社で仕事をしていると、いつの間にかSlackがある。

  • 「今日の件、Slackに送っておきます」
  • 「その資料、Slackに貼っておきました」
  • 「このチャンネル見ておいてください」

もはや珍しくない光景だ。

私自身、毎日使っているツールだ。

でも、ふと考える。

別にSlackじゃなくてもよくない?

チャットができればいいのであれば、Chatworkでもいい。

Microsoft 365を使っている会社ならMicrosoft Teamsでもいい。

メールだって一応、連絡はできる。

それなのに、Slackはなぜ企業向けコミュニケーションツールとして大きく広がったのだろうか。

しかも、Slackは企業向けチャットそのものを発明したわけではない。

日本ではChatworkが2011年3月にサービスを開始している。Slackの正式な公開は2014年なので、Chatworkの方が先だ。

Chatworkはメールに代わるリアルタイムな業務コミュニケーションを目的として生まれ、公開から1か月で1万アカウントを突破している。2016年には導入企業数9万社以上にまで成長していた。

つまり、

「Slackが出てきたから企業がチャットを使い始めた」

という単純な話ではない。

では、何がSlackをここまで広げたのか。

今回はそこを調べてみた。

Chatwork、Slack、Microsoft Teams。企業が欲しかったのは同じでも、広がり方は違った


Slackが登場する前、企業は何を使っていた?

Slackについて考えるなら、まずSlackが存在しなかった時代を見る必要がある。

当時の企業コミュニケーションの中心は、当然ながらメールだった。

メールは便利だ。

相手がその場にいなくても送れるし、記録も残る。ファイルも添付できる。

しかし、人数が増えてくると急に面倒になる。

「この件についてAさんに返信」

「やっぱりBさんにも共有」

「いや、Cさんにも確認してもらおう」

「返信が来た」

「その返信をまた別の人に転送」

……とやっているうちに、メールが増殖する。

Slack自身も2019年の上場関連資料で、従来のメールについて、業務システムから発生する通知やワークフローが個人の受信箱に入り、メールだけでは企業内に存在する情報全体を見渡しにくいという問題を説明している。

つまり問題は、

「文字で連絡できない」ことではなかった。

文字で連絡はできる。

問題は、仕事に必要な情報がメールという「個人の受信箱」に分散してしまうことだった。

メールの転送地獄と、チャンネルに情報を置くチャットの違い

そもそも企業はなぜチャットを必要としたのか

ここで重要なのは、企業が欲しかったものを考えることだ。

おそらく、

「Slackが欲しい」

ではない。

欲しいのは、

  • メールより気軽に連絡できる
  • リアルタイムでやり取りできる
  • チーム単位で会話できる
  • 過去のやり取りを確認できる
  • 会社の情報として管理できる
  • PCでもスマートフォンでも使える

といった環境だった。

Chatworkの歴史を見ると、まさにこの変化が見えてくる。

Chatworkは2011年、「メールにかわり、リアルタイムで業務のやりとりができるクラウド型ビジネスチャット」として提供を開始した。

つまり、Slack以前からすでに、

「メールではなく、仕事用のチャットを使いたい」

という需要は存在していた。

ここまで見ると、最初の疑問がかなり強くなる。

「じゃあ、Slackじゃなくてもよかったのでは?」

Slackは何が違ったのか

Slackの起源はちょっと面白い。

Slackは2014年に設立されたが、そのソフトウェアの元になったのは、Tiny Speckがゲーム「Glitch」を開発していたときに使っていた社内チャットだった。

2013年にゲームの終了を決めた際、開発チームはメール中心の環境に戻ることを嫌がり、その社内チャットを外部向けのサービスとして展開することになった。

つまりSlackは、

「企業向けチャットを作ろう!」

とゼロから作られたサービスではない。

「自分たちが仕事をするために使っていたものを、外にも出した」

というスタートだった。

そしてSlackの特徴として大きかったのが「チャンネル」という考え方だ。

プロジェクトごと、部署ごと、テーマごとに会話を分ける。

メールのように「誰か個人の受信箱」に情報を送るのではなく、

「この話はこの場所に置いておく」

という考え方ができる。

これによって、途中からプロジェクトに参加した人でも過去の会話を追いやすくなる。

現在のSlackも、チャンネルをプロジェクトや部署などの会話単位として説明している。

ただし、ここで勘違いしてはいけない。

「チャンネルがあったからSlackが勝った」

とまでは言えない。

他のサービスにも、それぞれ情報を整理する仕組みはあるからだ。

Chatworkと比べると何が見えてくる?

ここでChatworkと比較してみる。

Chatworkは2011年にサービスを開始している。

しかも、単なる個人向けメッセンジャーではなく、最初から仕事で使うことを意識したビジネスチャットだった。

2016年には導入企業数9万社以上。

2020年2月末には導入企業25.3万社、総ユーザー数319万人を突破したとChatwork自身が発表している。

つまり、

「Slackだけが企業チャット市場を作った」わけではない。

これはかなり重要だ。

日本国内だけ見ても、Slackが広がる前からChatworkはすでに大きな市場を作っていた。

では何が違ったのか。

一つは、サービスの設計思想だ。

Chatworkは「仕事のコミュニケーション」をかなり分かりやすく一つにまとめていた。

一方Slackは、チャンネルを中心に会話を組織化し、外部サービスとの連携を強く打ち出していった。

Slackは2019年時点で、Slack App Directoryに1,500以上のアプリが掲載されていたと説明している。さらに、企業が自社で作ったソフトウェアとの連携も可能だった。

この違いは結構デカい。

チャット単体なら、

「ChatworkでもSlackでもいいじゃん」

となる。

でも、

「GitHubから通知が来る」
「問い合わせが来る」
「タスクの更新が来る」
「Botが動く」
「社内システムと連携する」

となってくると、Slackは単なるチャットではなくなってくる。

「機密性のあるチャット」なら何でもよかったのでは?

ここで最初の疑問に戻ろう。

企業が必要としていたのが、

「社員同士が安全に仕事の話をできる場所」

だったとする。

だったら、本当に何でもよかったのではないか。

これはかなり「YES」に近い部分があると思う。

少なくとも、企業がSlackを選んだ理由をすべて「Slackの技術的な凄さ」で説明するのは無理がある。

実際、Slackが登場した2014年のセキュリティポリシーを見ると、チーム内の投稿は認証されたメンバーだけが閲覧できること、ダイレクトメッセージやプライベートグループにもアクセス制限があることなどを説明している。

つまり、企業で使うことを意識したプライバシーやセキュリティは最初から存在した。

現在ではさらに、保存時・通信時の暗号化、SSO、監査ログ、DLP、データ保持ポリシー、eDiscoveryなど、企業向けの管理機能が大量に追加されている。

ただし、

「セキュリティがあったからSlackが爆発的に普及した」

という因果関係は、今回確認した資料だけでは断定できない。

むしろSlack自身が2019年の資料で強調していたのは、口コミとボトムアップ型の導入だった。

ここが面白い。

Slackが強かったのは「導入方法」だった

Slackの2019年のSEC提出資料には、かなり興味深い説明がある。

Slackによれば、利用開始はエンドユーザーによって「bottoms-up」、つまり現場のユーザー側から始まることが多く、成長の大部分は口コミによるものだった。

これを普通の企業向けSaaSとして考えると、ちょっと変だ。

普通なら、

情報システム部門が比較
↓
上司が承認
↓
契約
↓
全社員に導入

という流れを想像する。

ところがSlackの場合、

開発チームが使い始める
↓
隣のチームも使う
↓
便利だから他の人も使う
↓
会社として有料契約する

という流れを作りやすかった。

これはプロダクトそのものとは別の強さだ。

現場が始め、口コミで社内に広がり、最後に会社が有料化するボトムアップ導入

無料で使えることが、社内への侵入経路になった

さらに重要なのが無料プラン。

Slackは無料版からすぐ利用を開始でき、正式な営業プロセスや支払いを経ずにユーザーが試せる仕組みを取っていた。

2019年1月時点で、Slackには10百万人を超えるDAUが存在し、60万以上の組織が利用。そのうち50万以上の組織が無料プランだった。

数字を見ると、かなり極端だ。

600,000以上の組織のうち、

  • 有料顧客:88,000社以上
  • 無料プラン:500,000組織以上

だった。

2019年1月時点のSlack。組織の大半は無料プランで、有料化は後から追いついた

もちろん、無料利用から有料契約への移行率だけを見てSlackの成功を説明することはできない。

しかし、

「まず使ってみる」ためのハードルを極端に下げた

ことは、Slack自身も成長戦略として明確に説明している。

無料で使える。

便利だった。

同僚にも使わせる。

気がついたら会社の中でSlackを使っている人が増える。

そして必要になったら会社が有料化する。

この構造はかなり強い。

チャットから「仕事のハブ」へ

さらにSlackは、チャットだけに留まらなかった。

ここで先ほどの1,500以上のアプリ連携が効いてくる。

Slackの2019年資料では、外部ソフトウェアから情報を集約したり、その通知に対してアクションを取ったり、ワークフローを進めたりするためのプラットフォームとしてSlackを説明している。

これをものすごく雑に言えば、

「仕事の連絡場所」

から、

「仕事に関係する情報が集まってくる場所」

へ変わったということだ。

GitHubを開く。

Jiraを開く。

メールを見る。

問い合わせシステムを見る。

タスク管理を見る。

……という状態から、

「とりあえずSlackを見る」

に変わっていく。

こうなると、チャットサービス同士の比較ではなくなる。

通知、タスク、コード、会議が一つの画面に集まる仕事のハブ

Microsoft Teamsが登場するとどうなった?

もちろんSlackだけがこの方向へ進んだわけではない。

Microsoft Teamsも企業向けのコミュニケーション・コラボレーション領域に参入し、Microsoft 365との統合を武器に競争するようになった。

Microsoft自身も2020年の年次報告書で、SlackをOfficeの競合サービスの一つとして明示している。Microsoftは自社の強みとして、既存技術との統合性や安全性、使いやすさなどを挙げている。

これを見ると、企業チャットの競争は単純な、

「どっちのチャットが使いやすい?」

ではないことが分かる。

  • すでに何のソフトを会社で使っているか
  • どのサービスと連携できるか
  • 管理者がどう管理できるか
  • 社員がどれだけ使いやすいか
  • 導入コストはいくらか

こうしたものが全部ひっくるめて「企業向けチャット」になっている。

だからTeamsが出てきたからといって、

「Slackのチャット機能が劣化した」

という話ではない。

むしろ、企業チャットそのものが「単なるチャット」ではなくなったと考えた方が近い。

結局、Slackじゃなきゃダメだったのか

ここまで調べて、最初の疑問に戻る。

「Slackじゃなくてもよかったんじゃないのか?」

これは、かなりの部分でその通りだと思う。

企業が求めていたのは、

「Slackという製品」

ではない。

メールより速く、チームで情報を共有でき、仕事の情報を集められて、企業として管理できるコミュニケーション基盤だった。

実際、ChatworkはSlackより早く市場に参入していた。

Microsoft Teamsは後から参入して、Microsoft 365との統合を武器に競争した。

つまり、「企業向けチャット」という需要自体はSlack固有のものではない。

ではSlackには何があったのか。

今回調べた範囲では、いくつかの要素が重なったと見るのが自然そうだ。

  • メールとは違うチャンネル型のコミュニケーション
  • 無料で始められる
  • 現場のユーザーが自分で導入できる
  • 口コミで社内に広げやすい
  • 外部サービスと大量に連携できる
  • 利用が広がるほど仕事の情報がSlackに集まる
  • 企業向けの管理・セキュリティ機能も拡張していった

要するに、

「最高のチャットアプリだったから勝った」というより、「使い始めやすく、広がりやすく、使い続ける理由を後からどんどん増やした」

という見方の方がしっくりくる。

もちろん、これだけでSlackの成功を完全に説明できるわけではない。

価格、営業戦略、ブランド、UI、当時のクラウドサービス市場、リモートワークの普及など、他にも要因はある。

ただ、「機密性のあるチャットなら何でもよかったのでは?」という最初の疑問については、かなり面白い答えが見えてきた。

まとめ:Slackが売ったのはチャットではなかった?

今回調べてみて一番面白かったのは、Slackの成功を「チャット機能」だけでは説明しにくいことだった。

企業向けチャットという市場はSlack以前から存在していた。

日本ではChatworkが2011年からサービスを提供していたし、2020年には25万社以上が導入する規模まで成長していた。

だから、

「Slackが画期的な企業チャットを発明した」

という理解では少し雑すぎる。

むしろSlackがうまかったのは、

「まず個人や小さなチームに使ってもらい、そこから組織全体へ広げる」

という普及の仕組みだったのではないか。

そして使う人が増えると、GitHubなどの外部サービスもSlackにつながっていく。

そうするとSlackは、

「チャットする場所」

から、

「仕事の情報が集まる場所」

へ変わっていく。

最終的には企業向けのセキュリティや管理機能まで整備され、大規模組織でも使えるサービスになっていった。現在のSlackも、暗号化、SSO、監査ログ、DLP、eDiscoveryなど、企業向けの管理・セキュリティ機能を提供している。

だから、もし質問が、

「企業はSlackじゃないと仕事ができなかったのか?」

なら、答えはたぶん違う。

でも、

「Slackは企業の中で、使われ続ける場所を作ることができたのか?」

なら、話はかなり変わってくる。

Slackが売ったのは、チャットそのものではなく、「仕事の情報が集まる場所」だったのかもしれない。

……まあ、こう考えると、チャットアプリを作っていた会社が、いつの間にか「仕事のOS」みたいな顔をし始めるのも、ちょっと納得できる。

参考資料

  • Slack「Slackとは何か?その仕組みは?」
  • Slack Technologies, Inc. Form S-1 / SEC(2019)
  • Slack「Security Practices」2014年アーカイブ
  • Slack「Security」
  • Chatwork「10周年 History」
  • Chatwork「Chatworkは5周年を迎えました」
  • Chatwork「Chatworkは9周年を迎えました」
  • Microsoft「2020 Annual Report」
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