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失敗から学ぶ! 50億円超を集めたThe Messengerが8か月で終了した理由について調べてみた

無料で大量のユーザーを集め、広告を表示すれば儲かる。そんなWebサービスの定番モデルに、巨額の資金を投じたニュースサイトがあった。しかし、そのサービスはわずか8か月で終了した。なぜ、ユーザーを集めても儲からなかったのか。

失敗から学ぶ! 50億円超を集めたThe Messengerが8か月で終了した理由について調べてみた

「無料のWebサービスを作って、ユーザーを大量に集める。そこに広告を貼れば儲かる」

Webサービスの収益化を考えたことがある人なら、一度は思いつく方法ではないだろうか。

実際、広告収入を大きな収益源としているWebメディアは数多く存在する。

しかし、このモデルには一つ大きな落とし穴がある。

ユーザーが増えることと、利益が増えることは同じではない。

そのことを象徴するような事例が、アメリカのニュースサイト「The Messenger」だ。

2023年5月、The Messengerは約5,000万ドルの資金を調達してスタートした。日本円にすると、当時の為替水準で50億円を大きく超える規模だ。

大量の記者を採用し、幅広いニュースを大量に配信し、100万人ではなく1億人規模の読者を狙う。

そして広告を中心に売上を作る。

ところが、サービスはわずか8か月ほどで終了した。

しかも、「誰も見に来なかった」という話ではない。

2023年11月には、77〜88百万ページビュー規模まで到達していた。

それなのに、なぜ失敗したのだろうか。

この記事ではThe Messengerの事例を追いながら、広告モデルのWebサービスは何を考えて設計すべきなのかを考えてみる。



The Messengerとは?

The Messengerは、メディア業界のベテランであるJimmy Finkelstein氏が立ち上げたアメリカのデジタルニュースメディアだ。

2023年5月に正式スタートし、政治、スポーツ、ビジネス、エンタメなど、幅広いジャンルを扱った。

特徴は、特定ジャンルに絞った専門メディアではなく、「多くの人が読む総合ニュースサイト」を目指したことだ。

スタート時点からかなり大きな構想を持っていた。

約5,000万ドルを調達し、最終的には550人のジャーナリストを含む750人規模の組織を目指していたという。

さらに2024年には、年間1億ドルの売上を目標としていた。

その中心となるのが広告だった。

The Messengerの経営陣は、デジタル広告を中心に、イベントなども組み合わせて売上を作る計画を立てていた。

  • つまり最初から「小さなニュースサイト」ではなく、「巨大な広告メディア」を作ろうとしていた。

ここが、今回の話を理解するうえで非常に重要だ。


最初から巨大なニュースメディアを作った

The Messengerは、サービスを公開してから少しずつ人を増やしたわけではない。

ローンチ時点で約150人のジャーナリストを抱えていた。

さらに急速な採用を続け、8か月の運営期間で会社全体では約300人規模にまで膨らんだと報じられている。

特にニュースメディアの場合、「ユーザーが増えたからサーバー代だけ増える」という単純な構造にはならない。

読者を増やすために記事を増やす。

記事を増やすために記者を増やす。

記者を増やせば人件費が増える。

つまり、

ユーザーを増やすための活動そのものが固定費を押し上げる。

これが非常に重い。


アクセスは本当に集まっていた

ここがThe Messengerの面白いところだ。

「誰も利用しなかったから終了した」という説明では不十分だ。

むしろ、短期間でかなりのアクセスを集めていた。

2023年10月には約6,380万ページビュー、11月には7700万ページビューを超えたと報じられている。

The Messenger自身も、Comscoreの数字として11月に7700万ページビューに到達したと説明していた。数字には計測方法などによる差があるが、数千万規模のページビューを短期間で獲得していたこと自体は間違いない。

つまり、

記事を書く
↓
人が来る
↓
大量のページビューが発生する

というところまでは、ある程度成功していた。

だからこそ、この失敗は面白い。

普通なら、

  • 「そこまでアクセスがあるなら、広告で儲かるんじゃないの?」

と思うからだ。

ところが、そう簡単ではなかった。


それでも広告収入が追いつかなかった

The Messengerが最初に掲げた2024年の売上目標は1億ドルだった。

ところが、2023年の売上は約300万ドル。

その後の報道では、2024年について60百万ドル超まで目標を引き下げていたことも明らかになっている。

もちろん、2023年は5月にスタートしたため、単純に年間比較することはできない。

それでも、

2024年に1億ドルを目指す会社が、2023年の数か月間で約300万ドルしか売上を作れていなかった

という差はかなり大きい。

さらに2024年1月には、追加で約2,000万ドルの資金調達を模索していた。

当初は追加の資金調達に頼らず、利益によって成長を続ける構想だったが、実際には資金が必要な状態になっていた。

そして最終的に追加資金を確保できず、2024年1月31日に終了した。


なぜそんなに経費がかかったのか

ここを単純に「広告モデルが悪かった」で片付けると、The Messengerの本質を見失う。

大きかったのは、最初から事業規模を大きくしすぎたことだ。

ニュースサイトでは記事を大量に作る必要がある。

そのため、

  • 記者
  • 編集者
  • 編集幹部
  • 広告営業
  • マーケティング
  • エンジニア
  • 経営・管理部門

など、多くの人間が必要になる。

しかもThe Messengerは、ニューヨーク、ワシントンD.C.、フロリダなどにオフィスを構えていた。

The Guardianは、複数のオフィスについて約800万ドルを費やしたとする報道を紹介している。

つまり、

「Webサイトだから経費が安い」

という状態ではなかった。

むしろ、

  • Webサイトを作ること自体は安いが、
  • Webメディア企業を巨大な組織として運営するのは高い。

ということだ。

さらにSemaforは、The Messengerが大量のニュースルームを短期間で構築したことでコストが膨らみ、広告収入が十分に生まれなかったことを指摘している。


最大の問題は「広告」そのものだったのか

ここは少し慎重に考えたい。

The Messengerの創業者Jimmy Finkelstein氏自身は、閉鎖後のAxiosのインタビューで、ビジネスモデル自体ではなく、黒字化するまでの資金を調達できなかったことが失敗の原因だったという立場を示している。

一方で、外部からはもっと厳しい見方がされている。

Semaforは、The Messengerが

ソーシャルメディアや検索エンジンから大量のトラフィックを集め、巨大な規模で広告を販売する

という、かつてのデジタルメディアモデルに大きく賭けていたと分析している。

Axiosも、The Messengerが「幅広い一般ニュースの巨大な読者層」そのものに価値があると考えていたことを問題として挙げている。

つまり、

「広告だからダメだった」

とは言い切れない。

より正確には、

  • 巨大なアクセスを広告収入に変えることを前提に、先に巨大なコスト構造を作ったこと

が危険だった、と考えるのが分かりやすい。


もし小さく始めていたら?

ここからは僕なりの分析だ。

もしThe Messengerが最初から300人規模を目指さず、もっと小さなチームで始めていたらどうだっただろうか。

例えば、

少人数でニュースサイトを作る
↓
月100万PV
↓
実際の広告収益を計測
↓
1PVあたりの収益を把握
↓
黒字になることを確認
↓
人員を増やす

という順番だ。

これなら、

「広告収入がどれくらいになるか分からない」

という状態で大量の固定費を抱える必要がない。

例えば仮に、

100万PV → 広告収入50万円

だったとする。

この場合、1PVあたりの収益は約0.5円。

単純化すれば、

1,000万PV → 約500万円

になる。

この数字を見てから、

「じゃあ人件費をどこまで増やせる?」

と考えればいい。

逆に、

100万PV → 10万円

しか稼げないのであれば、

「もっとPVを増やそう」

ではなく、

「そもそも広告モデルで成立するのか?」

を再検討するべきだ。

これが非常に重要だと思う。


個人開発の広告モデルに置き換えると

ここで話を個人開発に戻してみる。

個人開発者が広告モデルのWebサービスを作る場合、The Messengerとはかなり条件が違う。

例えば、

  • サーバーはCloudflareなどで低コスト化
  • コンテンツ制作は自分
  • 営業も不要な広告ネットワークを利用
  • オフィス不要
  • 人を雇わない
  • 自動化できる部分は自動化

という構成にできる。

すると、

月10万円の広告収入

でも成立する可能性がある。

例えば、

項目月額
広告収入100,000円
サーバー等5,000円
その他5,000円
利益90,000円

極端な例だが、個人開発ならこういう構造を作れる。

一方、会社として毎月数千万円の人件費を払っているなら、月100万円の広告収入では話にならない。

つまり、

同じ広告モデルでも、コスト構造によって「儲かる」と「赤字」は簡単に逆転する。


「PVが多いほど儲かる」とは限らない

広告モデルを考えるとき、どうしてもPVを追いたくなる。

しかし、本当に重要なのはPVだけではない。

見るべきなのは、

1ユーザー、あるいは1PVがいくらの利益を生み出すのか

だ。

例えば、

ケースA

100万PV
→ 広告収入100万円
→ 経費20万円
→ 利益80万円

なら、かなり良い。

ケースB

1,000万PV
→ 広告収入500万円
→ 経費800万円
→ 赤字300万円

なら、アクセスは10倍なのに事業としては失敗している。

だから、

  • PVを増やすことと、利益を増やすことは別。

広告モデルを設計するときは、この視点を持っておいたほうがいい。


さらに重要なのが「ユーザーが増えたときのコスト」

個人開発では、ここをかなり重視したい。

理想的なのは、

ユーザー10人
→ ほぼ無料

ユーザー1,000人
→ ほぼ無料

ユーザー10,000人
→ 少しコスト増加

ユーザー100,000人
→ それなりにインフラ費用が増える

という構造だ。

逆に、

ユーザー10倍
→ 必要な社員も10倍

というサービスは、広告モデルと組み合わせると非常に厳しくなる。

The Messengerの場合、記事を増やしてトラフィックを増やすことと、記者・編集者などのコスト増加が強く結びついていた。

ここが、個人開発者が真似するべきではない部分だ。


広告モデルでも「少ないユーザーで稼ぐ」という方法がある

もう一つ重要なのは、

「とにかく大量のユーザーを集める」以外の方法もある

ということだ。

例えば、一般ニュースを100万人に読ませるより、

特定業界の人10万人

に読ませたほうが広告主にとって価値が高い場合がある。

さらに、

  • 広告
  • スポンサー
  • 有料会員
  • ニュースレター
  • イベント
  • アフィリエイト
  • 法人向けサービス

などを組み合わせれば、広告だけに依存する必要もなくなる。

実際、ニュースメディアの中には、狭い読者層に強く刺さる情報を提供し、広告や有料購読など複数の収益源を組み合わせるモデルもある。

The Messengerと同時期のメディア業界を見ても、Punchbowl Newsのように、国会議員や議会スタッフ、ロビイストなどの非常に明確な読者層に絞ることで、有料購読と広告を組み合わせて成長した例がある。

つまり、

「100万人に薄く読まれる」

より、

「10万人にものすごく必要とされる」

ほうがビジネスとして強いケースもある。


結論:PVより「1ユーザーあたりの利益」を見る

The Messengerの失敗を見て、

「広告モデルは儲からない」

と結論づけるのは少し違う。

広告モデルで成立しているWebメディアは実際に存在する。

重要なのは、

広告収入がどれくらいあるか

だけではなく、

その広告収入を得るために、どれだけコストがかかるのか

だ。

The Messengerは約5,000万ドルを調達し、数千万規模のページビューを短期間で獲得した。

それでも、2023年の売上は約300万ドルにとどまり、追加資金を調達できないまま2024年1月に終了した。

この事例から個人開発者が学ぶなら、次の4つだと思う。

  • ① ユーザー数より、1ユーザーあたりの収益を見る
  • ② ユーザーが増えてもコストが増えにくい構造を作る
  • ③ 収益が確認できる前に固定費を膨らませない
  • ④ 広告以外の収益源も検討する

特に重要なのは③だ。

サービスが成長してから人を増やすことはできる。

しかし、先に人を大量に雇ってしまった場合、その固定費はユーザーが増えるまで待ってくれない。

The Messengerの事例は、

「Webサービスは作ることより、どういう経済構造で運営するかのほうが重要」

ということを、かなり分かりやすく教えてくれる。

そしてこれは、何億円も調達するスタートアップだけの話ではない。

むしろ、小さなWebサービスを作る個人開発者ほど重要な話なのかもしれない。


出典

  • Axios — The Messengerのローンチ、約5,000万ドルの資金調達、従業員規模、事業計画について
  • Semafor — The Messengerのページビュー、資金繰り、ニュースメディアとしての事業モデルについて
  • Axios — The Messenger閉鎖時の状況、2023年の売上、追加資金調達について
  • Associated Press(AP) — 閉鎖時の従業員数、読者規模、広告市場の状況について
  • The Guardian — The Messengerの運営費用、オフィス費用、資金状況について
  • TheWrap — 2023年の売上・支出、The Messengerの財務状況について

※ページビュー、ユニーク訪問者数、読者数などは、媒体や計測方法によって数字が異なる場合があります。本記事では、各報道で確認できる数値を区別して掲載しています。

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